集中治療を勉強

集中治療をメインに医学知識の備考録です。

ICUでのCandida auris outbreak

A Candida auris Outbreak and Its Control in an Intensive Care Setting

N Engl J Med 2018; 379:1322-1331
Abstract
◯背景
・Candida aurisは新興性の多剤耐性病原体である。Candida aurisのcoloinizationと感染の院内outbreakを報告する。
◯方法
・英国オックスフォード大学の神経集中治療室でのC. aurisのclusterを同定後、我々は患者・環境の集中的なスクリーニングプログラムと介入を行った。
・多変量ロジスティクス回帰では、C. aurisのcolonizationと感染の予測因子を同定した。患者と環境からの分離はwhole-genome aequencingにより分析された。
◯結果
・2015年2月2日〜2017年で計70人の患者がC. aurisのcolonizationまたは感染があると同定された。そのうち、66人(94%)が診断前に神経集中治療室に入室していた。
・侵襲性C. aurisは7人の患者でおきた
・神経集中治療室の滞在期間、患者のバイタルサインや検査結果を調節すると、以下の因子がC. aurisのcolonizationまたは感染の予測因子であった→再利用性の皮膚表面液化体温計 (multivariable odds ratio, 6.80; 95% confidence interval [CI], 2.96 to 15.63; P<0.001)、全身性のフルコナゾール投与(multivariable odds ratio, 10.34; 95% CI, 1.64 to 65.18; P=0.01).
・C. aurisは一般的な環境でほぼ発見されない
・新規発症は体温計を除去したあとのみで減った
・すべてのアウトブレイクC. auris South African cladeを有する単一の遺伝子クラスターであった
結論
・この院内アウトブレイクについてC.aurisの伝播は再利用性の皮膚表面液化体温計と関連しているとわかった。この新興性の病原体は環境にいてhealth care settingを介して伝播することが示された
 
Candida aurisは日本でも同定されておりoutbreakの懸念は尽きない。攻めの医療(ECMOとか)は華やかで注目されやすいが、こういった守備的な医療(感染対策や予防など)は地味だけどすごく大事であるとつくづく思う。

aspirinの1次予防に関する3つの論文

Effect of aspirin on disability-free survival in the healthy elderly.
N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa1800722
the Aspirin in Reducing Events in the Elderly (ASPREE) trial
Abstract
◯背景
・低用量アスピリンを5年服用することで高齢者においてdisability-free lifeを延長するかどうかは不明
◯方法
・オーストラリアとアメリカで70歳以上(米国では黒人とヒスパニックでは65歳以上)で心血管疾患、認知症、身体障害がない患者が対象
・100mgの腸溶アスピリンまたはプラセボにランダム化
・Primary end point→死亡、認知症、持続性身体障害の複合アウトカム
・Secondary end points→primary end pointの因子とmajor hemorrhage
◯結果
・年齢中央値74歳
・19114人がenrolledされ、9525人がアスピリン、9589人がプラセボに分類
・56.4%が女性、8.7%が非白人、11.0%がprevious regular aspirin use
・primary end pointに対するアスピリン使用の利益がないであろうことがわかりtrialは中止された
・Primary end point(死亡、認知症、持続性身体障害の複合アウトカム)→アスピリン群で21.5 events per 1000 person-years、プラセボ群で21.2 per 1000 person-years(hazard ratio, 1.01; 95% confidence interval [CI], 0.92 to 1.11; P=0.79)
・the final year of trial participationでのアドヒアランスアスピリン群で62.1%、プラセボ群で64.1%
・secondary end pointsに関しては有意差なし→death from any cause (12.7 events per 1000 person-years in the aspirin group and 11.1 events per 1000 person-years in the placebo group), dementia, or persistent physical disability.
・major hemorrhageはアスピリン群で有意に多い (3.8% vs. 2.8%; hazard ratio, 1.38; 95% CI, 1.18 to 1.62; P<0.001).
◯結論
・健康な高齢者でのアスピリン使用は5年間のdisability-free survivalを延長せず、major hemorrhageは高い率となった。
 
Effect of Aspirin on All-Cause Mortality in the Healthy Elderly
N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa1803955.
Abstract
◯結果
 
・全死亡のリスクはアスピリン群で12.7 events/1000 person-years、プラセボ群で11.1 events/1000 person-years in the pla- cebo group (hazard ratio, 1.14; 95% confidence interval [CI], 1.01 to 1.29)
アスピリン群で癌が高死亡率の主要なcontributorで、1.6 excess deaths/1000 person-yearsであった
・癌関連死亡はアスピリン群で3.1%、プラセボ群で2.3%(hazard ratio, 1.31; 95% CI, 1.10 to 1.56).
◯結論
・健康成人で毎日アスピリンを服用するとプラセボと比較して全死亡率がより高い
 
Effect of aspirin on cardiovascular events and bleeding in the healthy elderly. 
N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa1805819.
 
Abstract
◯結果
・major hemorrhage率→8.6 events/1000 person-years and 6.2 events/1000 person-years (hazard ratio, 1.38; 95% CI, 1.18 to 1.62; P<0.001)
◯結論
・健康な高齢者に低用量アスピリンを使用するとmajor hemorrhageは有意に増加する。
 
1つ目の論文に関してはprimary outcomeがQOLを考慮したものでありgood。残念な点は複合アウトカム、このprimary outcomeを評価するにはフォローアップ期間が短いと考えられる点。
2つ目は全死亡率がアスピリン群で有意に増加したことに関する分析。癌がアスピリン群の死亡を上げた可能性がある。癌腫にもよると思うが、アスピリンで癌が増えたというよりは背景因子の違いによる可能性が高く有意な死亡率上昇に関しては慎重な解釈が必要。
3つ目はまあ増えるよねといった結論。
N数もフォローアップ期間もしっかりしているRCT。先行するメタアナリシスと異なる結果もあり、さらなるRCTやメタアナリシスが待たれる。
 

Transcatheter Mitral-Valve Repair in Patients with Heart Failure
NEJM
the Cardiovascular Outcomes Assessment of the MitraClip Percutaneous Therapy for Heart Failure Patients with Functional Mitral Regurgitation (COAPT) trial
Abstract
◯背景
・左室機能不全に伴うMRの心不全患者は予後が不良である。経カテーテル的MV repairが予後を改善するかも。
◯方法
・米国とカナダの78施設で、ガイドラインンに準拠した内科療法を最大限行っても症候性の心不全とmoderate〜severeの2次性MRがある患者がenrolled
・患者は経カテーテル的MV repair+内科治療(device group) or 内科的治療のみ(control group)
・Primary effectiveness end point→24ヶ月フォローアップでの心不全の全入院
・Primary safety end points→12ヶ月でのdevice-related complications(prespecified objective performance goalを88.0%と設定)
◯結果
・614人がenrolledされ、302人がdevice group、312人がcontrol groupへ
・24ヶ月以内の心不全入院の年換算→device groupで35.8% per patient-year、control groupで67.9% per patient-year(hazard ratio, 0.53; 95% confidence interval [CI], 0.40 to 0.70; P<0.001)
・12ヶ月でのthe rate of freedom from device-related complications→96.6% (lower 95% confidence limit, 94.8%; P<0.001 for comparison with the performance goal)
・24ヶ月以内の全死亡率→device groupで29.1%、control group46.1%(hazard ratio, 0.62; 95% CI, 0.46 to 0.82; P<0.001).
◯結論
ガイドラインンに準拠した内科療法を最大限行っても症候性の心不全とmoderate〜severeの2次性MRがある患者において、経カテーテル的MV repairは心不全の全入院率と24ヶ月以内の全死亡率を低下させた。
 
日本でも一部施設で承認されているdevice。このRCTをきっかけに今後日本でも急速に普及する可能性があるのではないか。

退院後のVTE予防

Rivaroxaban for Thromboprophylaxis after Hospitalization for Medical Illness
N Engl J Med 2018;379:1118-27
The Medically Ill Patient Assessment of Rivaroxa- ban versus Placebo in Reducing Post-Discharge Venous Thrombo-Embolism Risk (MARINER) trial
Abstract
◯背景
 VTEリスクがある内科患者の退院後の血栓予防は議論の余地がある
◯方法
・二重盲検化試験(多施設)
IMPROVE score≧4 or score=2-3でD-dimerが正常上限の2倍以上の患者が対象
・rivaroxaban10mg/d(腎機能補正も)vs placeboを45日間
・primary efficacy outcome→症候性VTE or VTE関連死亡の複合アウトカム
・safety outcome→major bleeding
◯結果
・12024人がランダム化→12019人がITT解析へ
・Primary efficacy outcome→rivaroxaban 群で50/6007人(0.83%)、placebo群で66/6012人(1.10%)(hazard ratio, 0.76; 95% confidence interval [CI], 0.52 to 1.09; P=0.14)
・Secondary outcome:症候性非致死性VTE→rivaroxaban 群で0.18%、placebo群で0.42%(hazard ratio, 0.44; 95% CI, 0.22 to 0.89).
・Major bleeding→rivaroxaban 群で17/5982人(0.28%)、placebo群で9/5980人(0.15%) (hazard ratio, 1.88; 95% CI, 0.84 to 4.23).
結論:退院後45日間rivaroxabanを投与しても症候性VTEとVTE関連死亡のリスクは有意に減らさなかった。

 

脊損などで寝たきりなどリスクが高い患者さんの在宅でのVTE予防は悩ましく思っていました。十分なN数のRCTで有意差がでなかったですが、negative studyとしても価値あるものだと思いました。

Update in Critical Care 2016

Update in Critical Care 2016
Am J Respir Crit Care Med Vol 196, Iss 1, pp 11–17, Jul 1, 2017
AJRCCMの集中治療Up to date
気になる所のみまとめてみました。参考文献はAJRCCMに偏りがちです。
印象としては、HFNCの台頭とAKIが面白かったです。Sepsis-3が今後どうなっていくかも注目です。
 
◯Oxygenation during intubation and mechanical ventilation
・単施設ランダム化オープンラベルトライアル→挿管中にHFNCを使用した無呼吸酸素化は、酸素化なしと比較するとデサチュレーションの程度やSpO2<80%の割合の減少はなかった(Am J Respir Crit Care Med 2016;193:273280.)
・再挿管リスクの少ない患者で、HFNCを抜管後24時間以内に装着すると従来の酸素療法群と比較して有意に再挿管率を下げた(4.9 vs. 12.2%)(JAMA2016;315:13541361.)
・再挿管率がハイリスク患者では、HFNCを抜管後24時間以内に装着する群はNIVの使用と比較して再挿管の予防は非劣性(22.8 vs. 19.1%)(JAMA 2016;316:15651574)
→再挿管の低リスク、ハイリスクでの再挿管予防に重要かも
・人工呼吸管理中の酸素目標は依然として議論
conservative oxgen strategy(SpO2=88-92%) vs liberal(>95%)では人工呼吸管理中ではconservativeが適している。臓器不全や死亡率に差はなし(Am J Respir Crit Care Med 2016;193:4351.)
◯Infection and Organ Dysfunction
Acute Kideny Injury
・2つの研究が重症AKIに対するRRTの最適な開始タイミングを示しているが、対照的な結果となっている。
・ELAIN study→早期のRRT開始は晩期のRRT開始よりも90日死亡率を有意に改善する(JAMA 2016;315:21902199)
・AKIKI study→早期と晩期で60日死亡率に差はなし。晩期については腎機能回復のため50%のケースではRRT回避できた(N Engl J Med 2016;375:122–133.)
→ELAINは小規模単施設研究であること、2つの研究はAKIのステージについて異なったinclusion criteiriaを用いていることが結果の差異に繋がったかもしれない。
Sepsis Epidemiology
・新しいSepsis-3の定義→"life-threatening organdysfunction due to a dysregulated hostresponse to infection”(JAMA 2016;315:801810.、JAMA 2016;315:775787.)
・有効性を検討した2つの米国でのコホート研究(JAMA 2016;315:762774.)
Infection Treatment and Outcomes
・オープンラベル多施設研究(n=1575)で、プロカルシトニンガイドの治療は抗生剤投与治療期間と、全体の抗生剤曝露を減少させた( Lancet Infect Dis 2016;16:819827.)
・ProCeSS studyの補助的なstudyとして、敗血症性ショック患者でのAKIの進展について補液療法の有効性を検討→AKIの進展、RRTの使用、腎機能の回復に有意差なし(Am J Respir Crit Care Med 2016;193:281–287. )。3/4が入院時や入院後すぐにAKIを発症しており、そもそも敗血症ショックでAKIの予防は不可能ではないか(Am J Respir Crit Care Med 2016;193:232–233.)
・最も効果的な抗生剤の量や投与方法は不確か。
→severe sepsisでのindividual patient metaanalysis(n=632)で、研究間の異質性を調整して多変量解析を行いβラクタム抗菌薬の持続投与は間欠投与と比較して院内死亡率は同等(Am J Respir Crit Care Med 2016;194:681691.)
・カンジタ菌血症については、ICU-aquired sepsisで複数の部位からカンジタが検出され多臓器不全に陥っている非易感染性の患者で経験的なミカファンギン治療を14日間行ったプラセボ試験で、28日での生存と侵襲的真菌感染がないとのprimary outcomeは有意差なし(JAMA 2016;316:15551564.)
◯Long-Term Outcomes
Muscle and Bonse
・critical illnessの骨量や骨代謝に対する影響は不明
ICU survivorsの1年間フォローのコホート研究で、大腿骨頸部と脊椎の骨密度はmatched contorol subjectsと比較して有意に減少(Am J Respir Crit Care Med 2016;194:821830.)
Physical Therapy
・筋萎縮と筋力低下に対抗するために、physical therapyがICUで早期に組み込まれている
→ランダム化研究(n=120)でランダム化後28日間で集中的なリハビリと標準的なリハビリを比較して退院後6ヶ月の機能予後を比較。1、3、6ヶ月の機能予後は変わらず、他のsecondary outcomeも差はなし(Am J Respir Crit Care Med2016;193:11011110.)。人工呼吸管理開始後からリハビリがスタートしたため、効果が減弱したのではないか(AmJ Respir Crit Care Med 2016;193:10711072.)

敗血症関連脳症(SAE)の修正可能な要素

Potentially modifiable factors contibuting to sepsis-associated encephalopathy

Intensive Care Med (2017) 43:1075–1084

Abstract
◯目的
敗血症関連脳症(SAE)の修正可能な要素を同定することで患者のケアとアウトカムを改善する。
◯方法
前向きの多施設データベースの後ろ向き解析を行った。SAEはGCS<15またはせん妄の徴候がみられる時と定義した。ICU入院時の修正可能なリスクファクターは多変量ロジスティクス回帰分析で、死亡に対する影響はコックス比例ハザードモデルで解析された。
◯結果
CUで敗血症患者2513人がI組み入れられ、1324人(53%)がSAEを発症した。ベースラインの特徴、感染部位、入院形態を調整した後、以下の要素が独立してSAEと関連していた。急性腎不全(adjusted odds ratio (aOR) =1.41, 95% confidence interval (CI) 1.19–1.67)、低血糖<3mmol/L(aOR =2.66, 95% CI 1.27–5.59)、高血糖>10 mmol/l (aOR = 1.37, 95% CI 1.09–1.72)、高二酸化炭素血症 >45 mmHg (aOR = 1.91, 95% CI 1.53–2.38)、高ナトリウム血症>145 mmol/l (aOR = 2.30, 95% CI 1.48–3.57)、S. aureus (aOR = 1.54, 95% CI 1.05–2.25)。SAEは高い死亡率、高いICU資源の使用、長期病院滞在と関連していた。年齢、併存疾患、入院年、非神経学的SOFAスコア、意識の軽度変容(GCS=13-14)は依然として独立して死亡率と関連していた(adjusted hazardratio = 1.38, 95% CI 1.09–1.76)
◯結論
急性腎不全やよくある代謝異常はSAEの修正可能な要素であった。しかしながら、真の原因となる関連は示されていない。この研究では敗血症患者の精神状態の軽度の変容の予後に関する重要な要素を確認した。
 
◯感想
 SAEというまだよくわかっていない疾患群に対する後ろ向きではあるが大規模研究。疾患の定義自体が曖昧であるため交絡因子を否めない。今後の研究が期待されます。