集中治療を勉強

集中治療をメインに医学知識の備考録です。

Vasoactive medicationsがICUAWに与える影響

Impact of Vasoactive Medications on ICU-Acquired Weakness in Mechanically Ventilated Patients
CHEST 2018; 154(4):781-787
Abstract
◯背景
・vasoactive medicationについては重症患者でよく使用されるが、ICU-acquired weaknessの進展に関してのimpactはよくわかっていない
・この研究の目的→vasoactive medicationの使用とICU-acquired weaknessのoutcomeの関連性について評価するため
◯方法
・挿管患者(N=172)でearly occupational and physical therapy vs conventional therapyのRCTの2次解析。この研究では退院時ICU-acquired weaknessがend pointとして評価された
・割当に対して盲検化されたtherapistによってbedside muscle strength testingが行われた
ICU-acquired weaknessの発生率に対するvasoactive medicationの使用の効果が評価された
◯結果
ロジスティクス解析で、vasoactive medicationsの使用は他のweaknessのrisk factorと独立してthe odds of developing ICU-acquired weaknessを増加させた(odds ratio [OR], 3.2; P= .01)
・vasoactive medicationの使用期間(in days) (OR, 1.35; P= .004)と、 累積norepinephrine dose (mg/kg/d) (OR, 1.01; P= .02) (but not vasopressin or phenylephrine)は独立してICU-acquired weaknessのoutcomeと関連していた
◯Conclusions
・挿管患者では、vasoactive medicationの使用は独立してICU- acquired weaknessの発展と関連していた
 
久しぶりにICUAWに関する論文。RCTの2次解析であるが中々興味深い内容。たまには既定路線に乗らないわくわくする研究も面白い。

非ARDS患者へのlow tidal ventilation

Effect of a Low vs Intermediate Tidal Volume Strategy on Ventilator-Free Days in Intensive Care Unit Patients Without ARDS
A Randomized Clinical Trial
JAMA
Abstract
◯重要
・侵襲的換気でARDSがない重症患者においてlow tidal volumesを使うべきかどうかはわかっていない。
◯目的
low tidal volume ventilation strategyが intermediate tidal volume strategyよりも効果的がどうか決定するため
◯デザイン、セッティング、参加者
・2014年9月1日〜2017年8月20日までオランダの6つのICUで換気開始から24時間以内に抜管されないであろうARDSのない患者を対象としたランダム化研究
◯介入
Invasive ventilation using low tidal volumes(n=477) or intermediate tidal volumes (n = 484)
◯main outcomes and measures
・The primary outcome→the number of ventilator-free days and alive at day 28
・Secondary outcomes→length of ICU and hospital stay; ICU, hospital, and 28- and 90-day mortality; and development of ARDS, pneumonia, severe atelectasis, or pneumothorax.
◯結果
961 patients (65% male), with a median age of 68 years(interquartile range [IQR], 59-76)がenrolled
・28日までに、the low tidal volume group475人は a median of 21 ventilator-free days (IQR, 0-26)、the intermediate tidal volume group480人ではmedian of 21 ventilator-free days (IQR, 0-26) (mean difference, –0.27 [95% CI, –1.74 to 1.19] P = .71)
ICU (median, 6 vs 6 days; 0.39 [–1.09 to 1.89] ; P = .58) and hospital (median, 14 vs 15 days; –0.60 [–3.52 to 2.31]; P = .68)の滞在期間、28-day (34.9% vs 32.1%; hazard ratio [HR], 1.12 [0.90 to 1.40];P = .30) and 90-day (39.1% vs 37.8%; HR, 1.07 [0.87 to 1.31]; P = .54)死亡率に関して有意差はなし
・以下のadverse eventsに関して発症率も有意差はなし→ ARDS (3.8% vs 5.0%; risk ratio [RR], 0.86 [0.59 to 1.24]; P = .38), pneumonia (4.2% vs 3.7%; RR, 1.07 [0.78 to 1.47]; P = .67), severe atelectasis (11.4% vs 11.2%; RR, 1.00 [0.81 to 1.23];P = .94), and pneumothorax (1.8% vs 1.3%; RR, 1.16 [0.73 to 1.84]; P = .55).
◯結論
・24時間以内に抜管が期待されない非ARDSのICU患者にlow tidal volume strategyを行ってもnumber of ventilator-free daysは変化しない
 
非ARDS患者に対するICUでのlow tidalの最大RCT。ランダム化までの時間が短すぎてinclusionできなかった患者がまあまあいる、ventilatorの設定の自由度が高いなど問題点はあるが比較的それ以外は問題はあまり感じない。
先行RCT(Chest. 1990;97(2):430-434. Crit Care 2010, 14:R39. Crit Care. 2010;14(1):R1. Anesthesiology 2011; 114:1102–1110)はclinical outcomeをprimary outcomeとしていないものがあったり、clinical outcomeで有意差がでなかったりしている。メタアナリシス(Intensive Care Med 2014; 40:950–957. Crit Care Med. 2015;43(10):2155-2163.)では、観察研究が含まれていたりと評価が難しいが肺合併症などを減らしている。
今回のRCTはある程度N数もありβ erroの可能性も低いか。となると非ARDS患者にわざわざlow tidalしてもそこまでメリットはないのか?
そもそもintermediate tidal群もプラトー圧を25未満にするなど結構気を使ったventilatorの設定をしており差がでるのが難しいRCTであったのではないかなあと思います。
less is moreではないけど、なんとなくICUの最近の風潮の1つであるRCTであった気がします。
 

ICUでのストレス潰瘍に対するPPIのRCT

Pantoprazole in Patients at Risk for Gastrointestinal Bleeding in the ICU
the Stress Ulcer Prophylaxis in the Intensive Care Unit (SUP-ICU) trial
NEJM
Abstract
◯背景
ICU患者にストレス潰瘍予防はよく投与されているが、それによるリスクと利点は不明
◯方法
・ヨーロッパでの多施設、parallel-group、盲検化試験
・急性病態(i.e., an unplanned admission)でICU入室し、消化管出血のリスクがある成人患者をICU滞在中に40 mg of intravenous pantoprazole (a proton-pump inhibitor) or placeboにランダム化
・primary outcomeはランダム化後90日での死亡
◯結果
・3298人がenrolled
・1645人がpantoprazole、1653人がplacebo
・primary outcomeが取得できたのが3282人(99.5%)
・90日死亡→510 patients (31.1%) in the pantoprazole group and 499 (30.4%) in the placebo group(relative risk, 1.02; 95% confidence interval [CI], 0.91 to 1.13; P=0.76)
ICU滞在中少なくとも1回の臨床的に重要なevent (a composite of clinically important gastrointestinal bleeding, pneumonia, Clostridium difficile infection, or myocardial ischemia)→21.9% of patients assigned to pantoprazole and 22.6% of those assigned to placebo (relative risk, 0.96; 95% CI, 0.83 to 1.11)
・clinically important gastrointestinal bleeding→pantoprazole群で2.5%、placebo群で4.2%
・感染またはserious adverse reactions、90日以内のlife supportなしでの生存日数のpercentageは両群で有意差なし
◯結論
・消化管出血のリスクがあるICU成人患者でpantoprazoleとplaceboにおいて90日死亡率とclinically important eventsの数は似ていた
 
ESICM関連でpublishされた論文の1つ。ICUストレス潰瘍に対するRCTではダントツで最大規模である。結果は最近のnetwork meta-analysis(Intensive Care Med 2018;44:1-11)と同じで、PPIplaceboと比較して消化管出血は有意に減少させるが死亡率は減少させない。試験のデザイン(盲検化、ランダム化、期間、施設など)は十分でNも十分でありβ erroの可能性は低く信頼できるRCTであろう。かつICUストレス潰瘍によるGI bleeding古典的なrisk factor(N Engl J Med. 1994;330(6):377.)をしっかりinclusionしており実臨床に則している。
問題としては、優越性試験であること。PPIガイドラインで推奨されかつ、実臨床でもよく投与されるため死亡率に対する有意差がないだけでは中止できない。加えて、compositeなeventsは有意差がないものの、clinically important GI bleedingは有意に減少するため臨床的価値がないとまでは言えない。
まずは、非劣性試験が待たれる。
しかし、最近のICUのトレンドでもあるless is more(今回はmoreでもないが)的論文でこのトレンドで学んでいる世代としては良い論文だなあとつくづく感心しました。
 

未診断患者に対するgenetic diagnosisの効果

Effect of Genetic Diagnosis on Patients with Previously Undiagnosed Disease
NEJM
Abstract
◯背景
・多くの患者がextensive medical evaluationをしても診断がつかない
The Undiagnosed Diseases Network (UDN)→ほとんどのchallenging casesの評価においてmultidisciplinary modelを提供し、新規に発見された疾患にたいしてbiologic characteristicsを同定するために提供された
・the UDNはNIHによりseven clinical sites, two sequencing cores, and a coordinating centerのネットワークとして2014年に設立された
◯方法
・20ヶ月以上the UDNに参照された患者に対して評価した
・患者→health care providerによる評価でもundiagnosed condition
・complete evaluationを受けた患者での診断率と、medical careでの診断における効果を検証した
◯結果
・1519人 (53% female)がUDNに参照され、 601人(40%)が評価の対象となった
・受け入れられた患者の192人(32%)は以前にexome sequencingを受けていた
・症状→neurologic in 40% of the applicants, musculoskeletal in 10%, immunologic in 7%, gastrointestinal in 7%, and rheumatologic in 6%
・complete evaluationを受けた382人のうち、132人は診断がつき、診断率は35%
・15の診断 (11%)はclinical reviewのみでつき、98 (74%)はexome or genome sequencingで診断がついた
・診断を受けた患者で、21%は治療の変更の推奨をうけ、37%はdiagnostic testingの変更に繋がり、36%はvariant-specific genetic counselingとなった
・31の新規の症候群を定義した
◯結論
・the UDNはcomplete evaluationで382人中132人で診断を受け、診断率は35%であった
 
集中治療で診断学は重要であるが当院では専門科が診断を行う。そのため治療学がメインを占めているため診断学に関しては門外漢である印象である。この論文は小児を対象としているし(普段は成人のICU管理のみであるので)、おそらく慢性疾患が大半であり普段接しない患者群を対象としている。
にしても、exome sequencingなどで診断をつけるなんてSFの世界みたいですごく興味深かった。かつ、診断率とその後の治療変更、一部の患者に限定されているがお金の話も書いてあり非常に読み応えがある論文であった。
診断率35%はどう評価したらいいのか?

心疾患リスクが高い患者に対するrivaroxabanの効果

Rivaroxaban in Patients with Heart Failure, Sinus Rhythm, and Coronary Disease
N Engl J Med. 2018 Oct 4;379(14):1332-1342
The COMMANDER HF trial
Abstract
◯背景
心不全血栓関連経路の活性化と関連しており予後不良となる。第Ⅹa因子阻害剤のrivaroxabanの治療により血栓の生成を減らし悪化傾向の慢性心不全の患者の予後と背景にある冠動脈疾患を改善するのではと仮定した。
◯方法
・二重盲検比較化試験
・慢性心不全があり、EF≦40%、冠動脈疾患があり、ナトリウム利尿ペプチドが上昇しているがAfがない患者が対象
・5022人をrivaroxaban 2.5mg✕2/d or placeboにランダム化(心不全悪化後の標準治療は行っている)
・primary efficacy outcome→全死亡、MI、strokeの複合アウトカム
・principal safety outcome→致死的出血または、永続的な障害を引き起こす可能性があるcritical spaceへの出血
◯結果
・medial follow-up period→21.1 months
・the primary end point→rivaroxaban群626/2507(25.0%) 、placebo群658 /2515(26.2%)(hazard ratio, 0.94; 95% confidence interval [CI], 0.84 to 1.05; P=0.27)
・全死亡率に有意差なし→ (21.8% and 22.1%, respectively; hazard ratio, 0.98; 95% CI, 0.87 to 1.10)
・principal safety outcome→ rivaroxaban群で18人、placeboで23人(hazard ratio, 0.80; 95% CI, 0.43 to 1.49; P=0.48).
◯結論
・慢性心不全の増悪、EFの低下、冠動脈疾患があるがAfがない患者に対してrivaroxabanを投与しても死亡、MI、strokeの複合アウトカムの有意な改善はなかった。
 
ACS直後の患者に対する低用量rivaroxabanの有用性は示されているが、心不全に対する抗凝固薬(warfarin)の抗血小板薬に対する有用性は乏しいことは先行研究で示されている。では、心不全が悪くなった直後の患者に対するrivaroxabanを検討したRCT。目の付け所は悪くないが結果はnegative study。ACS直後には有用で心不全直後にはダメとか自分には病態的な説明を読んだけどイマイチ納得できないがおもしろいRCTでした。

敗血症でのAKIに対するRRTのタイミング

Timing of Renal-Replacement Therapy in Patients with Acute Kidney Injury and Sepsis
N Engl J Med 2018;379:1431-42.
DOI: 10.1056/NEJMoa1803213
Abstract
◯方法
・多施設ランダム化試験
・RIFLE分類でfailure stageの患者でAKIに関連した致死的合併症がない早期敗血症性ショック患者
failure-stage acute kidney injuryと診断されてから12時間以内の群(early strategy)か、腎機能回復が起きなければ48時間後に行う群 (delayed strategy).
・primary outcomeは90日以内の死亡
◯結果
・2回目の中間解析で無益性のため早期中止
・488人がランダム化
・ベースラインに両群で有意差なし
・477人が90日間のフォローアップを受けて、the early- strategy groupで58%が (138 of 239 patients)、the delayed-strategy groupで 54%が (128 of 238 patients)死亡(P=0.38)
・the delayed-strategy groupで38% (93 patients)がRRTを受けなかった
・the delayed-strategy groupで緊急透析の基準を満たしたものは17%であった(41 patients)
◯結論
・敗血症で重症AKI患者にRRTを早期に行っても晩期に行っても90日死亡率に有意差はなし
 
controversialな結果となっているAKIに対する早期RRT。早期中止されている点はweak pointであるが、ある程度質の高いRCT。先行研究(RCT→特にAKIKI study、メタアナリシス)を加味すると少なくとも敗血症に対する早期RRTが有用である可能性は低いであろう。

敗血症に対するPMXのRCT

Effect of Targeted Polymyxin B Hemoperfusion on 28-Day Mortality in Patients With Septic Shock and Elevated Endotoxin LevelThe EUPHRATES Randomized Clinical Trial
JAMA. 2018;320(14):1455-1463.
Abstract
◯重要性
・Polymyxin B hemoperfusionは敗血症でのエンドトキシンレベルを減少させる。敗血症性ショックでエンドトキシンの活動性が上昇している患者でpolymyxin B hemoperfusionを使用することで臨床アウトカムを改善するかもしれない
◯対象
・敗血症性ショックでエンドトキシン活動性が高い成人患者450人(エンドトキシン活性≧0.60)
◯デザイン
・多施設ランダム化研究
・2010年9月〜2016年6月の北米55 teritary hospitals(アメリカ、カナダ)
◯介入
・2つのpolymyxin B hemoperfusion(90-120minutes)+標準治療をenrollment後24時間以内 (n = 224 patients) or 偽性hemoperfusion+標準治療 (n = 226 patients)
◯主要アウトカムとmeasures
・primary outcome→ランダム化された全患者とmultiple organ dysfunction score (MODS)>9の患者の28日死亡率
◯結果
・450人のeligible enrolled patients (meanage, 59.8years ;177[39.3%]women; mean APACHE II score 29.4 [range, 0-71 with higher scores indicating greater severity)のうち、449人(99.8%)が研究を完了した。
・Polymyxin B hemoperfusionは全患者の28日死亡率(treatment group, 84 of 223 [37.7%] vs sham group 78 of 226 [34.5%]; risk difference [RD], 3.2%; 95% CI, −5.7% to 12.0%; relative risk [RR], 1.09; 95% CI, 0.85-1.39; P = .49)または、MODS>9の患者の28日死亡率(treatment group, 65 of 146 [44.5%] vs sham, 65 of 148 [43.9%]; RD, 0.6%; 95% CI, −10.8% to 11.9%; RR, 1.01; 95% CI, 0.78-1.31; P = .92)に関して有意差はなかった
・全体として264件の重大なadverse eventsが報告された (65.1% treatment group vs 57.3% sham group)
・最もよくある重大なadverse eventsは敗血症の増悪 (10.8% treatment group vs 9.1% sham group)、敗血症性ショックの増悪(6.6% treatment group vs 7.7% sham group)であった
◯結論
・敗血症性ショックでエンドトキシン活性が高い患者で、Polymyxin B hemoperfusion+標準治療は、偽性hemoperfusion+標準治療と比較して28日死亡率を減少させない。
 
相反する2つの先行RCT(EUPHASABDOMIX)がある中での最大規模のRCT。この結果から少なくともPMXが推奨される可能性は低いであろう。